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2009年1月 6日 (火)

喪服を着て

昨年の大晦日に、小学生時代から10年間にわたってお世話になったピアノの先生が亡くなり、今日、五反田の桐ヶ谷斎場で告別式がおこなわれました。

ご夫婦でピアノを教えていらして、亡くなられたのは奥さまのほう。お二人ともすでにご高齢で引退して久しいため、ごく少人数のひっそりした告別式になるだろうと想像していたのですが、実際には私のように訃報を聞いたかつての教え子たちがたくさん集まったのです。

棺の中に横たわった先生は、頭のてっぺんから足の先まで、みんなが手向けた数えきれないほどの薄紅色の花々で埋め尽くされました。花がお好きな先生でしたから、きっと喜んでくださったに違いありません。カーネーション、薔薇、スイートピー。すべて薄紅色か赤でした。花びらごしに、私はじつに数十年ぶりに先生の静かなお顔を拝見したのでした。ありがとうございました、どうぞ光の中へ軽やかに溶けていってくださいと、胸の内で話しかけました。

往年のレッスンは容赦なく厳しく、ある年などは、秋に学生音楽コンクールが控えているのに夏休みに2週間のヨーロッパ旅行に行くことを白状したらがっちり怒られ、旅行に楽譜数冊と紙製鍵盤を持たされたこともあったけれど、とても可愛がっていただきました。

その数年後、ピアノの道には進まないことに決めて最後のご挨拶にうかがったとき、先生がおっしゃった言葉は
「バッハだけは、会得したみたいね」。
それは私にとっては素晴らしいお褒めの言葉でした。

訃報を聞いたときには、ご高齢だから…と、諦念とさびしさと懐かしさが入りまじった安らかな悲しみのようなものを感じていたのですが、遺影のお顔を見たら、どこから湧いてくるのか涙がとめどなく流れて、もうどうしようもありませんでした。私がピアノの前で過ごした時間は長く、思い出はあまりにも多かったのです。

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