« Silent Night | トップページ | 帰省していました/帰省します »

2008年12月26日 (金)

『コーヒーの鬼がゆく~吉祥寺「もか」遺聞』

この秋冬はコーヒーに関する本の収穫が多いですね。

先日AllAboutの記事でご紹介した石脇智広さんの著書『コーヒー「こつ」の科学』は、コーヒーのおいしさ、おもしろさに文字通り科学的に迫った一冊でしたが、嶋中労さんの『コーヒーの鬼がゆく』は、自家焙煎コーヒーの先駆者にして求道者、もしくは畸人として名高い標交紀(しめぎゆきとし)さんを中心に、長年コーヒーに情熱を捧げつづけた人々の姿を、いわば文学的(?)な見地から綴っています。

21世紀の自家焙煎コーヒーの世界は一部で若返っていて、おしゃれ好き、雑貨好きの若い女性たちが参入してきたおかげで「身綺麗な生活アート」に変化した側面があるのですけれども、20世紀の自家焙煎コーヒーの世界はアクの強い畸人変人たちが揃って百家争鳴。その人間くささときたら!

「素敵な大人」「良識ある社交人」としてのバランスはいちじるしく欠いた、そもそもそんな人間をめざすべきだなどとははなから考えていない、コーヒーに憑かれた男たち。好きなものを一心不乱に追い求めつづける気迫は、常識人たちを圧倒します。

中でもとりわけ意固地な変わり者として知られ、しかし焙煎中に神が降りてくるような稀有な瞬間をつかんだ標さん。激しい情熱と自負心を賭けたコーヒーだからこそ、飲む人にどれくらい理解され、堪能してもらえたかを神経質なまでに気に病まずにはいられなかったようです。あれほど神様扱いされてもなお、震えるような繊細な心を秘めていらしたとは。愛されたい孤独な魂。

「標マスターは晩年、『ついに俺の味をわかってくれる人はいなかった』と、よく嘆いていましたけど、最期はマキさん(奥様)といっしょにおいしいコーヒーが飲めればいい、それが一番幸せなことなんだ、と思い直したみたいですね。こいつだけはわかってくれている。深い絶望から突き抜けられたのは、夫人のマキさんのおかげじゃないかしら」
  (『コーヒーの鬼がゆく』 本文より)

標さんの訃報を聞いたのは昨年のちょうどいまごろでした。

|

« Silent Night | トップページ | 帰省していました/帰省します »

97 本日の1冊」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/219376/43532282

この記事へのトラックバック一覧です: 『コーヒーの鬼がゆく~吉祥寺「もか」遺聞』:

« Silent Night | トップページ | 帰省していました/帰省します »