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2008年11月26日 (水)

『おくりびと』…喫茶店に住む

納棺師がおこなう喪の仕事。故人のためというよりは、遺族の心を癒すために。
様式美にのっとった納棺師の端正な手さばきが、魂の去った亡骸に最後の尊厳を与えています。

三連休中に『おくりびと』を観ました。小山薫堂による脚本は、重すぎず軽すぎず心地よい温度に保たれて、ウェルメイドと呼ぶにふさわしい世界をつくりあげていました。

本木雅弘の控えめなトーンの演技や、もともと持っている端正なたたずまいが納棺師という職業にまことにふさわしく思われましたが、後日、この映画の発端は彼自身のアイディアだったと知ってさすがに驚きました。

日常的に死というものにじかに触れる人々は、仕事のあとで、食べる食べる! それもお肉ばかりを。
死者はもはや何も口にすることはないけれど、生きものは生命を食べて生きていかねばならない……という覚悟の最もわかりやすい例が、炭火で炙って塩をふったフグの白子。生命のかたまり。

「うまいんだよな、困ったことに」

納棺師の先輩、山崎努のひとことが耳に焼きつきます。なにしろ彼はことさら強調するように音をたてて、白子をすすりあげてみせるのですから。

山盛りのローストチキンは、もちろん骨をしゃぶりつくして。はじめての納棺の仕事のあとで鶏肉を見て吐いていた本木雅弘も、仕事が板についてくると、長いバゲットをわしずかみにし、その上に赤い刺身をのせてかじりついているではありませんか!
仕事中に冷たい遺体に触れ、灰色の皮膚を拭き清めてきた両手は、そのように激しく肉食することで生者たちの日常生活の中に帰還するのかもしれません。

…と、あいかわらずスクリーンの中で人々が食べている光景に目が釘付けになってしまうわけですが、カフェ好きとしては、『おくりびと』が喫茶店に住む映画だという側面にも注目せざるをえません。

正確には「もと喫茶店だった一軒家に住む映画」ですね。おそらくは名曲喫茶のたぐいだったのでしょう。残されている古いレコード群、ちょっとした舞台のようなコーナーに置かれたスピーカー。名曲喫茶のあとでスナックとして使われたために、雑然とした生活感が加わって。

大きな三角テーブルの上に並べられる、若い夫婦二人分のごはん。それはなかなかに居心地の良さそうな空間なのでした。

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