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2008年2月13日 (水)

月の裏側

先週、あるカフェのスタッフからメールをいただきました。しばらく前にそのカフェのオーナーが亡くなり、賃金が未払いなので、遺族を相手に法的措置を取るつもりであると。その準備として、スタッフ側に情報が少ないので、私がオーナーに取材した際の情報を少しでも教えてほしいとおっしゃるのです。

オーナーが他界された理由を尋ねると、遺族によれば埠頭近くの海で水死体で発見されたらしい、との返信がありました。あまりのことに、言葉もありませんでした。そしてスタッフのメールの中に、故人の死を悼む言葉が見当たらなかったことにも、胸がえぐられる思いでした。

私がお店にうかがったのは昨年、オープンしてから2週間もたたないころでした。飲食店の経験がまったくない個人が開いたカフェにありがちなことですが、まだ、取材するタイミングには少し早すぎたように思われました。
フードビジネス開業スクールで基本を学び、プロのデザイナーに依頼してセンスの良い小さな空間ができあがったものの、実際にお店をスタートさせてみると予想した通りにはいかず、適切なアドバイスをしてくれる同業者のつながりもなく……という混乱した状態で、まだ最初の波を乗り越えていなかったのです。

オーナーご自身は謙虚でたいへん魅力的なかたでしたし、ご年配の常連客がつき始めて、どんなワインを置くのがよいかなど、あれこれ指南してくれているようでしたから、お店はひとやま乗り越えれば順調に進むのではないかと思われました。半年後、お店が軌道にのって安定してきたころにもう一度おうかがいしますねと約束して、私はそのお店をサイトにまだ掲載せずにおくことにしました。

その「半年後」が訪れることは、なくなってしまったのです。その後何度かオーナーとやりとりしたメールには、日々の苦心と、でも笑って乗り越えるつもりですから、またお店に来てくださいねという前向きな言葉が綴られていたのですが……。もはや、ご冥福をお祈りしますとしか申し上げることができないのが、あまりにも、あまりにも悔やまれます。

本当は書かずにおくつもりだったのですが、何日過ぎてもこのできごとをうまく飲み込むことができずにいて、頭の整理のために迷いながら書いてみました。でも、やはりうまくいかないようです。

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99 喫茶と散歩の日々」カテゴリの記事

コメント

残念なお知らせ、残念なメールでしたね。
サマンサさんにこの投稿を書かせたきっかけはスタッフの方からのメールかもしれませんが、書く気持ちにさせたのはオーナーの方の想いだったかもしれませんね。
このような内容になってしまったことは残念でしたが、半年後に紹介される筈だったお店がほんの一時、一握りの人達であっても楽しませていた事をここに紹介されて、オーナーの方も喜んでおいでになるでしょう。ご冥福をお祈り申し上げます。
スタッフの方にも御遺族の方にも良い形で話しがまとまると良いですね。

投稿: Miu | 2008年2月15日 (金) 14時40分

オーナーの想いがこのブログを書く気持ちにさせた……、本当にそうかもしれません。
亡くなる直前のオーナーにとっては、この世界がどれほど冷たく残酷な場所に感じられていただろうと想像すると、たまらない気持ちになります。
幸福なカフェと、閉じられていくカフェと。
私が手伝えることなど何もないのですが、双方に思いを馳せながら、これからもコーヒーのある場所をほそぼそと愛していこうと思います。

投稿: 川口葉子 | 2008年2月15日 (金) 21時38分

僕はカフェとはちがいますが、お店をやっています。
お店を始めてもうすぐ二年。
たくさんのそびえ立つ壁に向かい何度も死んだ方がましだと思いました。
街を楽しむだけの自分だった時は思いもよらなかったこと。
街を作っている人たちは命がけだったのです。
今ももがいて苦しんで。
カフェのオーナーは結果を出してしまいました。
でも、こうやって世界の末端の僕のアンテナに何かを送ってくれました。
悲しい事実ですが、力をいただきました。
ありがとうございます。

投稿: ameya | 2008年2月16日 (土) 22時13分

ameyaさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
実際にお店を経営されている方の日々の苦しさ(と、喜び?)は、外側から眺めるだけではわからないことばかりなのでしょうね。
「自分のお店」という舞台で世界と向き合っている人も、「作品」や「仕事」という舞台で世界と向き合っている人も、何を一番大切にするか、どんな選択をしていくか、日々、小さな信念が問われ続けているように思います。
それぞれの舞台で、それぞれの人々が、くじけたり絶望したりしながらもそのたびに自分を立て直して生き続けられますようにと願うばかりです。

投稿: 川口葉子 | 2008年2月18日 (月) 13時02分

サマンサさん、こんにちは。いつも素敵なカフェニュースを運んでいただきありがとうございます。
「月の裏側」を読んでコメントしようかどうかしばらく悩みました。
私も1年ほど前に小さなカフェをオープンし、理想と現実のギャップに挫けそうになる毎日を送っている者の一人です。ここで紹介されているオーナーの気持ちが痛いほど良く分かってしまいます。
でもサマンサさんがこのことをブログで触れてくれたおかげで、きっとオーナーも喜んでくれていると思います。雑誌や本で紹介されるカフェはどこも素敵で暖かく、誰でも夢が簡単に叶うような気になってしまうんですよね。でも現実はそんなやさしいものじゃない。それでも悩み苦しんでいるのは自分だけじゃない、だから頑張ろう、サマンサさんのブログを通してオーナーからそう前向きに背中を押されたようにも思います。
月の表側ばかりではなく裏側も紹介していただきありがとうございました。

投稿: cima | 2008年2月19日 (火) 16時51分

cimaさん、はじめまして。コメントありがとうございます。cimaさんも毎日、ご自身のカフェで月の表側と裏側に直面されているのですね。
このできごとをブログに書こうか書くまいかと大変迷ったのですけれども、カフェ経営で苦心なさっている方に、ささやかな勇気の一粒のようなものが伝えられたのだとしたら、亡くなられたオーナーのお心も、ほんの少しだけでも報われるのかもしれない…そんな気がしました。

すべてのものごとに、両面があるのですよね。肝心なのは表と裏のバランス。
裏側だけにしか目が向けられなくなったとき、このオーナーのような悲劇を迎えてしまうのでしょう。

投稿: 川口葉子 | 2008年2月20日 (水) 00時37分

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