2008年5月10日 (土)

ギャルリ百草@多治見

Momogusa

新緑がほんとうに柔らかい色をしている期間は、桜の花の期間とおなじくらいに短いものです。先月訪れたギャルリ百草は、ちょうど輝くばかりの新緑の中にあり、タクシーから降りたってそのみずみずしい空気を吸い込んだだけで胸がふるえるようでした。
複雑な山道をレンタカーで進む自信がなかったので、ひんぱんにタクシーにお世話になる旅でしたが、どの運転手さんも「一番いい季節にここに来ましたね」と声をかけてくれました。

多治見~伊賀・亀山~松阪のカフェを回ってきます、とブログに書いておいたら、ギャルリ百草ですね!とメールで当ててくだった方が数名。そして今日初めてメールをくださった「蕎麦とカフェの旅」がお好きだという50代の男性は、なんと上記の地名からギャルリ百草を筆頭に5軒のカフェの名前を挙げ、それが全部当たっているという素晴らしさ。おそれいりました。

ギャルリ百草の工房で安藤雅信さんが作るオランダ皿の造形が、どうして築100年を経た日本の古民家の空気に違和感なく馴染んでいるのか。その理由について、私は千利休がオランダ渡りのうつわを茶器に用いたことに始まる伝統などを考えていたのですが、安藤さんご自身に別の観点から詳しくお答えいただいて、すっと腑に落ちました。「マニアックな質問をしていただいて嬉しいです」との前置き付きで。

そのご回答を盛り込みつつ、新刊書の原稿書きを進めていますが、締切日とカフェのリストをもとにスケジュール表を作ったら、できるわけがありません!というペース配分。もう真っ青です。どうぞ楽しそうな遊びには誘わないでください。しくしく。

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2008年5月 7日 (水)

骨董カフェにて(2) バタアシ金魚

その骨董カフェでのこと。私の取材時間が終わるころに、店内に金髪の欧米人女性がひょっこり入ってきました。Japan Timesの裏面にコラムを書いているそうで、「おもしろいストリートの特集をします。このお店をのせてもいいですか?」と、なかなか達者な日本語で申し込みました。

店主は彼女が着ていたグリーンの「バタアシ金魚」のTシャツに目をとめました。金魚が好きで、緑色が好きだから、ユニクロで見たときに衝動買いしたと彼女は言います。えーと、金魚といってもそれは…と思っておりましたら、店主がひとこと。

「ぼく、高校のときその漫画の主人公に似てるって言われてたんだよね」

心の中で大笑いしてしまいました。彼女と店主の間で交わされる寸断スタイルの一問一答を聞きながら、なにしろ花井薫くんにインタビューするのであれば、すんなり一筋縄ではいきませんよねと、数分前まで同じような一問一答をしていた同業者として陰ながら彼女を応援しつつ。

彼女が「また来ます」と言い残してお店を出ていったあと、詳しく訊ねてみたら、店主は高校生のとき、先生に職員室に呼ばれて、バタアシ金魚を知っていますかと聞かれたのだそうです。先生いわく「女生徒が、この漫画の主人公が○○君にそっくりだから読んだ方がいい、と勧めてくれたのよね」

良いセンスの生徒がいたものです。

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2008年5月 5日 (月)

骨董カフェにて

骨董カフェで取材を終え、ここから先は取材抜きです、と宣言してひとりでコーヒータイム。気をしずめておいしいコーヒーを飲んでおりましたら、取材中には目に入らなかった、ガラス棚のいちばん下に置かれていたうつわに呼ばれました。表面の緑の釉薬の濃淡。それが剥がれて、ところどころに赤い土が顔をのぞかせ、形容しがたい色調になっています。

中国の、漢の時代のものです、と店主は言います。鍋のかたちに作られた副葬品であったと。たしかに短い柄がついています。店主は今まで買い付けに行って鍋を見かけても全く食指が動かなかったのが、初めて買う気になったのがこれなのだそうです。

じっくり触らせていただいたら、なんだか奇妙な親しみを感じてしまったのです。遠い昔、知らない貴人とともにお墓に埋葬されたお鍋に。

おそるおそる値段を尋ねてみると、オアフ島に1回旅行ができるくらい。黙ってひたすら見とれていたら、店主が私の後ろあたまに向かって言い放ちました。
「たとえば、野葡萄」

このカフェに置かれている骨董は、花器としても用いられることを前提にしているのです。もともと店主が花をいけるうつわとしての骨董を集めてきたから。
目の前の古鍋のすみに、野葡萄がこぼれている光景を想像してみました。青や紫や薄緑、濃緑の小さな実の色彩。なんと美しい。それから店主は、このうつわにふさわしい草花を次々に挙げていきました。秋冬の気配をもつ草花が良いだろうと。ああ、もうだめです。自分の想像力に負けたのか、うつわの力に負けたのか、店主の作戦に負けたのか。

「クレジットカードは、使えますか」
店主はにやりとして言いました。
「使えないけど、向かい側のコンビニエンスストアにATMがありますよ」
「…ではちょっと、行ってまいります」

丁寧に包んで箱に入れてもらった古鍋を下げて帰る道すがら、大事なものをお嫁にもらってきたような気持ちになりました。お鍋というのがどことなく自分らしいと思いました。くの字型の短い柄のおかげで、巨大なコーヒーカップのようにも見えます。水を入れると表面が剥がれてくるだろう、というので花器として使うのではなく、ただ眺めて触れて愛でようと思います。

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2008年5月 4日 (日)

『カヤバコーヒーのうた』 寒空はだか

屋上喫茶階』のページに屋上者のひとりとしてご登場いただいた寒空はだかさん。彼を知ったきっかけは、私の東京タワー好きを知っている友人が、寒空はだかさんが歌う脱力の名曲『東京タワーの歌』を聞かせてくれたことでした。

本をご覧くださった方は、赤いシャツを着た寒空はだかさんの男前な写真が記憶にあることと思います。彼の写真を撮影したのは昨年の夏のこと。そのときに、よく晴れた有楽町の交通会館の屋上で、寒空はだかさんのもうひとつの名曲『カヤバコーヒーのうた』を目の前で歌っていただくという幸運に恵まれました。

カヤバコーヒーは古くから谷中の交差点でおばあちゃん二人が営んできた喫茶店で、ひとによっては、『コーヒーカップ4杯分の小さな物語』におさめた私の短編小説『すみれの珈琲、れんげのゼリー』のモデルはこの喫茶店ではありませんか?…と、素敵にマニアックな推測をしてくれたりもします。答えは残念ながら違うのですが。

完成した『屋上喫茶階』を寒空はだかさんに進呈したところ、今年3月にCD化された『カヤバコーヒーのうた』を送ってくださいました。帯には「カヤバコーヒーのうたってさあ、かなりいい曲だよね! 鈴木慶一」という推薦文。まことに、うららかな散歩の友としても、コーヒーを淹れるためにやかんを火にかけるときなどにも、最高のハナ歌なのです。メロディが脳天気にうららかであればあるほど、ほろりとしてしまいます。その喫茶店は今年はもはや開いていないから。

さて、ここからが本題。寒空はだかさんからの郵便物には、東京タワーの切手と、有楽町交通会館のスタンプが押してあって、いたく感動してしまいました。こういうディテールへの視線が、あの芸に通じるのかしらと思ったりして。

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2008年4月27日 (日)

『本棚三昧』

Photo_2ひとの本棚をこっそりのぞく楽しみは格別。別に「こっそり」する必要はないのですが、なんだか見てはいけないものを見てしまうような、相手の頭の中に入り込んでその一部を見ているような、そんな気持ちになるものですから。

ほんの少しだけ罪深い、本棚拝見の楽しみをまとめた本が発売されました。他人の本棚をおなかいっぱいになるまで見てみたい…という欲望から生まれたという『本棚三昧』には、合計28名のひとの本棚が詳しく紹介されています。ほんとうに、それだけ! どのページをめくっても本棚の写真が続きます。

個人的に大変面白かったのは、ブックデザイナー祖父江慎さんの本棚。「おんなじものが、いっぱい」がコンセプトらしく、夏目漱石の同じ本のコレクションが壮観です。『坊ちゃん』なんて、ほんの少し装丁や字体を変えながら、100年のあいだに何十回も出版されてきたわけですからね。それも、大切に保管してあるというより、雑然とつっこんであるように見えるのが祖父江さんの個性でしょうか。

私の本棚も、かたすみでご紹介いただいております。本棚の全容を公開するのは恥ずかしかったので、玄関と廊下に置いてある本棚2つだけに限って撮影していただきました。カメラマン藤牧徹也さんが、お香がたなびきキャンドルが揺れるうちの狭い廊下に座り込んで撮影なさっていた光景が忘れられません。

本棚三昧
写真: 藤牧徹也/価格: 定価1,680円/青山出版
詳細は青山出版のこのページでどうぞ。

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2008年4月26日 (土)

遊形サロン・ド・テ~京都俵屋の洗練

Tawaraya

空間の美しさを大きなポイントにしたカフェでは、往々にして、小さなほころびで興ざめしてしまうことがあるものです。たとえば厨房に収納しきれなかった野菜や調味料の段ボールが、客席からよく見える位置に雑然と置いてあったり、ランプシェードの埃が目立ったり。もちろん、それが家庭的なあたたかさや、気取らない親しみやすさをチャームポイントとするカフェなら別ですが。

京都で訪れたこの美しいカフェには、すみずみまで作り主の眼がこまやかにいきわたり、ただのひとつも興ざめするほころびがみあたりませんでした。俵屋旅館が手がけたカフェの洗練と品格。新緑の輝く窓辺に、ウェグナーの椅子。

遊形サロン・ド・テ
(ただいま制作中の本のなかで詳しくご紹介させていただきます)
京都市中京区姉小路麩屋町東入ル
【TEL】 075-212-8883
【OPEN】 11:00~19:00、火曜日定休

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